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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)13668号 判決

原告 藤村正一郎

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 植木敬夫

同 菅原哲朗

同 堀敏明

同 五十嵐敬喜

被告 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右指定代理人 田中庸夫

〈ほか二名〉

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告藤村正一郎に対し金一二五万円、原告山口昌子に対し金一二三万円、原告倉澤康彦に対し金一二一万円及び右各金員に対する昭和五九年二月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告らの居住状況等

(一) 原告藤村正一郎は、岩田孝一から同人が所有する東京都品川区東大井五丁目五六五番九号所在の宅地(以下「本件土地」という。)のうち三九・一九平方メートルを建物所有を目的として賃借し、昭和一八年から昭和五九年三月末ないし四月初め頃までの間、同土地上に建物を所有してそこに居住していた(以下右建物を「藤村建物」という。)。

(二) 原告山口昌子は、岩田孝一から本件土地のうち三五・九二平方メートルを建物所有を目的として賃借し、昭和二二年から昭和五九年三月末ないし四月初め頃までの間、同土地上に建物を所有してそこに居住していた(以下右建物を「山口建物」という。)。

(三)(1) 伊藤カツヨは、岩田孝一から本件土地のうち三二・六六平方メートルを建物所有を目的として賃借し、同土地上に建物を所有していた(以下右建物を「伊藤建物」という。)。

(2) 原告倉澤康彦は、昭和三七年六月一〇日、伊藤カツヨから伊藤建物の贈与及び右土地の借地権の譲渡を受け、同日以後昭和五九年三月末ないし四月初め頃までの間、伊藤建物に居住していた。

2  都市計画事業の経緯

(一) 昭和二一年一二月七日、戦災復興院総裁は、旧都市計画法(大正八年法律第三六号)の規定に基づき、同院告示第二五三号をもって、内閣総理大臣が大井町駅付近の広場及び街路に係る都市計画を決定した旨を告示した。

(二) 昭和三二年一二月二八日、建設大臣は、建設省告示第一七八三号(以下建設省告示は全て「第一七八三号告示」のように表記する。)をもって、右(一)の都市計画を変更、追加する旨の決定を告示した。

(三) 昭和三三年八月二三日、建設大臣は、第一三二七号告示をもって、東京都知事(以下「知事」という。)を施行者とする大井町駅付近の広場及び街路に係る東京都市計画事業(以下「本件事業」という。)及びその執行年度割の決定を告示した。なお、本件土地は本件事業に係る都市計画に定める計画道路内に位置している。

(四) 建設大臣は、その後次のとおり本件事業の執行年度割を順次変更する旨の決定を告示した。

(1) 昭和三六年三月二九日、第八二五号告示

(2) 昭和三九年三月三一日、第一〇七七号告示

(3) 昭和四四年三月三一日、第一一五七号告示(最終の事業執行年度昭和四六年度)

(五) 昭和四七年四月一日、建設大臣は、現行の都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号)の規定に基づき、第七二五号告示をもって、左記の都市計画事業(以下「本件新事業」という。)を認可した旨を告示した。

(1) 執行者の名称 東京都

(2) 都市計画事業の種類及び名称

東京都市計画道路事業大井町駅付近広場二号、街路三号及び街路四号

(3) 事業施行期間 昭和四七年四月一日から昭和五〇年三月三一日まで

(4) 事業地 東京都品川区東大井五丁目地内

なお、本件土地は右の街路四号内に位置している。

(六) 建設大臣は、その後次のとおり本件新事業の施行期間を順次延長する事業計画の変更を認可した旨を告示した。

(1) 昭和五〇年三月三一日、第五八一号告示(施行期間昭和五三年三月三一日まで)

(2) 昭和五三年三月三一日、第六四四号告示(施行期間昭和五六年三月三一日まで)

(3) 昭和五六年三月九日、第四一四号告示(施行期間昭和五九年三月三一日まで)

(4) 昭和五九年三月七日、第四三六号告示(施行期間昭和六二年三月三一日まで)

3  建築基準法による道路指定

昭和三三年九月一六日、知事は、建築基準法上の特定行政庁として、東京都告示第八五六号をもって、本件事業に係る都市計画に定める計画道路(そこに本件土地が含まれている。)について同法四二条一項四号の道路として指定する旨の道路指定(以下「本件指定」という。)をした旨を告示した。

4  知事の違法行為(主位的主張)

(一) 建築基準法四二条一項四号による道路指定(以下「四号道路指定」という。)は、都市計画法等による新設又は変更の事業計画のある道路で、二年以内にその事業が執行されるものとして特定行政庁が指定したものを、建築基準法の適用上道路として扱うこととするものであるところ、右規定によれば、四号道路指定を行うには、(ア)都市計画法等による計画道路の新設又は変更の事業計画があること、及び(イ)その事業が二年以内に執行される予定のものであることが要件となっている(以下右要件を「四号道路指定要件」という。)。

(二) 本件指定は、それが告示された昭和三三年九月一六日から二年を経過した昭和三五年九月一六日の時点で四号道路指定要件(イ)が充足されないものとなり、右要件の不充足の瑕疵は重大かつ明白であるから、本件指定は後発的に無効となった。

知事は、本件指定が無効となった時点において、本件指定を取消し又は撤回する措置をとって、その外形を除去すべき義務が生じたにもかかわらず、漫然と本件指定をそのまま放置し、それが形式的に有効であるとの状態を維持した。

(三) 仮に、右(二)の主張が認められないとしても、前述のとおり、本件事業の最終執行年度は第一一五七号告示により昭和四六年度(昭和四七年三月三一日)までとされていたところ、同年度においても事業の執行は遂げられず、昭和四七年三月三一日が経過した時点で執行が完了しないまま終了した。これによって、本件指定は、右時点において、四号道路指定要件(ア)を充足しなくなったのみならず、四号道路指定要件(イ)も充足し得なくなったのであるから、当然に失効した。

知事は、本件指定が失効したことに加え、右失効時点で改めて本件土地につき四号道路指定要件の充足の有無を判断できる状態にあったところ、右時点で本件事業がその決定告示から約一四年間進行していなかったこと及び本件新事業についても同様の状態が続くことを予測できたことからすると、本件新事業が二年以内に執行されるのは不可能であるということを容易に判断し得たのであるから、本件指定を取消し又は撤回する措置をとり、その外形を除去すべき義務が生じたにもかかわらず、漫然と本件指定をそのまま放置し、それが形式的に有効であるとの状態を維持した。

5  知事の違法行為(予備的主張)

(一) 四号道路指定は憲法上国民に保障されている財産権を制約するものであるが、これは道路建設という公共の福祉実現のために、二年以内に都市計画法等に基づく事業が執行され、計画に係る道路が建設されることを当然の前提としているものというべきである。したがって、事業施行者は、四号道路指定がされた以上、その指定後二年以内に事業を執行し、計画に係る道路を築造しなければならない義務を負い、右期間を経過しても事業が執行されない場合には、国民の財産権を違法に侵害することになるのである。

しかるに、当時の本件事業の施行者である知事は、右義務を怠り、本件指定の後二年目の昭和三五年九月一六日が経過するまでに、本件事業の執行をしなかった。

(二) 仮に右(一)の主張が認められないとしても、建築基準法四二条一項四号の規定の趣旨並びに都市計画法六〇条二項三号が都市計画事業の認可申請に当たり事業計画中に事業施行期間を定めることを義務づけていること及び本件事業の執行年度が三年間とされていたことからすると、事業施行者が一〇年以上も事業の執行をしないでいることが認容されるはずはない。

したがって、知事は、本件事業の施行者又はその代表者として、遅くとも、本件事業決定の告示から約一四年を経過した、第一一五七号告示に係る最終執行年度である昭和四六年度の終了時点までには、その執行を完了すべき義務があったにもかかわらず、これを怠り、右時点になってもなお本件事業を完了させず、未完のまま終了させた。

仮に、右時点では義務懈怠とはいえないとしても、知事は、本件新事業の施行者の代表者として、本件新事業が認可された昭和四七年四月一日から二年目の昭和四九年四月一日までには、その執行を完了すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った。

6  原告らの被害

(一) 原告らは、本件指定が形式上存続していることによって本件土地について建築基準法四四条の建築規制を受け、そのため、その居住建物の建替えができず、また、借地上の建物を第三者に売却することも事実上不可能な状態に置かれ、経年老朽化する建物での生活を余儀なくされた。

(二) 平和開発株式会社は、昭和五五年九月二四日、本件指定に係る道路を前面道路として本件土地の南隣の土地上に別紙物件目録記載の建物を建築する旨の建築確認申請を行ったが、本件指定が形式上存在していたことから、右建築の確認がされ、昭和五七年三月一七日までに右建物を建築した。そのため、原告らの居住建物は、採光及び天空のない状態になり、日照も阻害され、冬至の日照時間は藤村建物及び山口建物については午前一〇時から午後三時まで、伊藤建物については午前九時から午後二時までになった。

更に、原告らは、風害、電波障害、プライバシーの侵害等の被害を被った。そのため、原告らの住環境は、これ以上にない悪い状態となった。

(三) 原告らは、憲法上健康で文化的な最低限度の生活を営む権利及び幸福追求権を保障されているのであるが、右(一)及び(二)の生活状態は、右保障を実質的に奪い、原告らの人格権を侵害するものというべきである。

7  被告の損害賠償義務

右6の原告らの被害は、知事の故意又は過失による右4、5の公権力の行使たる違法行為の結果生じたものであるから、被告は国家賠償法一条一項に基づき、右被害に係る後記8の原告らの損害を賠償すべき責任がある。

8  原告らの損害

(一) 慰藉料

原告らは右6の被害を受けたことにより多大の精神的苦痛を受けたが、これに対する慰謝料としては、原告らにつき、各自金一〇〇万円が相当である。

(二) 更新料相当損害金

(1) 本件指定が取消し又は撤回されてその外形上の存在もなくなっているとすれば、原告らは所有建物の必要な建替え又は適正価格による売却ができたものであるところ、建替えの場合は、本件土地が防火地域内にあるので建替え後の建物は堅固建物とすることとになって、借地条件の変更により通常借地期間が延長されるものであるから、後述のような更新料を支払う必要はなかったし、また、売却の場合は、当然のことながら、更新料を支払う必要はなくなるのである。しかし、原告らは、知事の不法行為により居住建物の建替えも売却もできなくなり、各所有建物での居住を強いられたことから、以下のとおり更新料の支払を余儀なくされ、更新料相当額の損害を被った。

(2) 原告藤村は、土地賃貸借契約の更新に際し、昭和五〇年六月二九日、岩田孝一の代理人である大井エンタープライズ株式会社に対し、更新料金二五万円を支払った。

(3) 原告山口は、土地賃貸借契約の更新に際し、岩田孝一の代理人である大井エンタープライズ株式会社に対し、更新料二三万円を、昭和五〇年六月二九日に金一〇万円、同年八月二八日に金六万五〇〇〇円、同年一〇月三〇日に金六万五〇〇〇円宛分割して支払った。

(4) 原告倉澤は、土地賃貸借契約の更新に際し、昭和五〇年六月二九日、岩田孝一の代理人である大井エンタープライズ株式会社に対し、更新料金二一万円を支払った。

9  よって、原告らは被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、知事の不法行為により被った損害として、原告藤村について金一二五万円、原告山口について金一二三万円、原告倉澤について金一二一万円及び右各金員に対する不法行為後の日である昭和五九年二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1について

(一) (一)のうち、原告藤村が藤村建物を所有してそこに居住した始期が昭和一八年であることは知らないが、その余の事実は認める。

(二) (二)のうち、原告山口が山口建物を所有してそこに居住した始期が昭和二二年であることは知らないが、その余の事実は認める。

(三) (三)の(1)の事実は認める。(2)のうち、原告倉澤が昭和五九年三月末ないし四月初め頃まで伊藤建物に居住していたことは認めるが、居住した始期は知らず、その余の事実は否認する。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は認める。

4  同4について

(一) (一)、(二)は争う。

(二) (三)のうち、本件事業の最終執行年度が第一一五七号告示によって昭和四六年度(昭和四七年三月三一日)までとされたこと、本件事業の執行が昭和四七年三月三一日が経過した時点で完了していなかったことは認めるが、主張は争う。

5  同5について

(一) (一)は争う。

(二) (二)のうち、本件事業の最終執行年度が第一一五七号告示によって昭和四六年度までとされたこと、本件事業の執行が昭和四七年三月三一日が経過した時点で、また本件新事業の執行が昭和四九年四月一日の時点で完了していなかったことは認めるが、主張は争う。

6  同6について

(一) (一)のうち、本件土地が本件指定により建築基準法四四条の建築規制が及んでいることは認めるが、その余の事実は知らない。

(二) (二)のうち、平和開発株式会社が別紙物件目録記載の建物の建築確認を受けたこと(ただし、右建物の延面積は七六一・四九平方メートルである。)、右建物の建築によって原告らの居住建物に対する日照が阻害されたこと及び原告らの住環境が悪化したことは認めるが、その余の事実は知らない。

(三) (三)は争う。

7  同7は争う。

8  同8について

(一) (一)は争う。

(二) (二)の(1)は争う。(2)ないし(4)の事実は知らない。

9  同9は争う。

三  被告の反論

1  知事の違法行為(主位的主張)に対する反論

(一) 四号道路指定は、仮に指定の際に前提となった事業が何らかの理由により完了しないまま終了したとしても、直ちに失効するものではなく、同指定自体が権限ある行政機関により取り消されるまではなおその効力を有するものである。しかるところ、本件指定については、これまで取消し、変更等の処分がされてはいない。

(二) 建築基準法四二条一項四号でいう「二年以内にその事業が執行される予定のもの」とは、事業で計画された道路の位置及び形状が明確に定まっており、かつ、近い将来事業が執行され、計画どおりに道路が築造されることが明らかであるものを指すと解すべきであって、事業の執行が安易に遷延されることを防止する趣旨に出た訓示規定であると解される。

(三) 知事は、昭和三三年九月、当時の本件事業の施行者である知事(なお、本件事業の施行者は、現行の都市計画法五九条、同法施行法三条及び同法施行令附則七条により、同法の施行日である昭和四四年六月一四日からは被告になった。)から、本件事業に係る都市計画に定める計画道路について四号道路指定の依頼を受けた。特定行政庁としての知事は、調査の結果、本件計画道路がその位置及び形状が明確に定まっており、かつ、近い将来にその計画道路ができることが明らかであって、道路指定要件が具備されているものと認められたので、昭和三三年九月一六日本件指定を行ったのである。そして、本件事業は後記2のとおり継続して進行しているのであるから、知事が本件指定を維持していることは正当である。

2  知事の違法行為(予備的主張)に対する反論

(一) 本件事業の進行状況は以下のとおりである。

(1) 本件事業は大井町駅付近広場二号、街路三号及び街路四号から成る駅前広場とそれにつながる連絡通路二本を築造するという内容的に一体のものであり、本件新事業とは実質上全く同一のものである。

(2) 本件事業については、昭和三四年五月四日その事業概算額が決定され、右決定によれば、総事業費は、一億一七四〇万円であり、被告の負担額が一億〇三五九万一〇〇〇円、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の負担額が一三八〇万九〇〇〇円とされた。

(3) 右概算額の決定に先立ち、昭和三四年三月一四日右概算額中の昭和三三年度分の工事として広場二号の盛土、街渠敷設、歩道砂利敷等の工事に着手して同月三一日これを完成し、同年九月一三日品川区長にその管理の仮引継を行った。昭和三五年三月三一日には、昭和三四年度分の工事として広場二号のアスファルト舗装を完了し、更に、昭和三五年度には、街路四号に一部掛かる品川公会堂プールの撤去と、それに伴う整地工事を行った。

(4) 本件事業用地の取得状況については、昭和三二年までに広場二号については約八八パーセント、街路四号については約二二パーセントの割合の用地を取得しており、昭和三七年には街路四号については約三三パーセントの割合の用地を取得し、同時期における本件事業全体の用地取得率は約六四パーセントであった。昭和三二年までに取得していた土地については昭和四三年五月本件事業の所管部に所管換えをし、内部手続上も本件事業用地として扱う手続が完了した。

しかし他方、知事が広場二号の工事に着手しようとしていた昭和三四年初め頃になると、地元住民の一部から本件指定に係る広場及び街路の位置変更を求める運動が起こり、本件事業用地内の民有地の用地買収はほとんど進捗しなくなった。また国鉄は、その財政事情等の理由から分担金の負担について容易には応じない状態にあった。

(5) しかし、昭和四〇年代の半ば頃になると、本件事業の推進が是非とも必要とする事情が発生した。すなわち、昭和五五年度前期完成を目途とする大井埠頭整備計画が進行し、同埠頭への交通の基点となる大井町駅前の整備の必要性が増大した。また、昭和四五年一月に計画決定された有明インターから昭和島インター間の首都高速道路湾岸線第一期工事により、大井埠頭近辺の交通量が飛躍的に増大することも予想されていた。更に、本件事業における街路四号が接続することになる補助第二八号線道路が昭和四四年五月の事業決定を経て、昭和五二年度着工、昭和五四年度完成という予定で動き出し、昭和五一年度の用地買収時に街路四号の一部を同時に買収するなど、本件の事業地域の早急な整備の必要度が高まってきた。以上のような事態の進行に関連して、昭和五二年八月一〇日には品川区から文書によって本件新事業の促進方の申入がなされている。

(6) ところでこの間の昭和四三年六月一五日に現行の都市計画法が制定されて、昭和四四年六月一四日これが施行され、それに伴い、旧都市計画法が同日廃止され、経過規定により本件事業の施行者は知事から被告に変更となった。被告は、昭和四七年三月頃、本件事業の最終執行年度の終了に先立ち、右(5)記載の事情下における本件事業の重要性と緊急性を再確認し、本件事業を継続することを決めたが、現行の都市計画法の施行に伴い、同法に準拠する都市計画事業として新たに認可を受けることとし、その頃本件事業と全く同一内容の本件新事業の認可申請を行い、同年四月一日認可を受けた。

(7) しかるに、昭和四八年一〇月に発生したいわゆるオイルショックに伴うインフレーションの終息策としての総需要抑制政策の一環として公共事業に対する国庫支出金が抑制されたことに加え、被告の財政事情も極度に窮迫し、土木関係予算が極度に切り詰められたことや国鉄が分担金を負担しなくなったことなどの事情により、本件事業の進行は遅滞することとなった。

(8) 昭和五六年度頃になると被告の財政事情もやや好転の兆を見せ、昭和五七年度以降は国庫補助事業として本件事業用地の買収を進めていった。そして、昭和五八年二月には合計一一二平方メートル、昭和五九年二月から五月にかけては原告らの借地部分を含む合計三一七・一八平方メートル、昭和六〇年一一月一五日には街路四号用地内の未買収地全部の買収が完了し、同時期において本件事業用地の約八四パーセントの割合の土地を取得した。なお、本件事業は昭和六四年秋頃二棟の再開発ビルの完成と同時に執行を完了する予定である。

(二) 以上のとおり、本件事業は、昭和三三年八月二三日の第一三二七号告示による事業決定の告示以来、本件新事業に引き継がれた昭和四七年四月一日以後も、一貫して事業の完成に向けて努力が継続されているものである。本件事業の遅延は、初期の頃は一部地元住民による反対運動及び財源として見込んでいた国鉄の分担金が入らなかったことによるものであり、また、昭和四八年度以降は全く予期せざる経済事情の変化と被告の財政事情の窮迫によるものであって、その遅延には、合理的な理由があるというべきであるから、それが不法行為となる余地はない。

第三証拠関係《省略》

理由

一  原告らの居住状況等について

1  原告藤村

(一)  請求原因1の(一)の事実は、原告藤村が藤村建物を所有してそこに居住した始期の点を除き、当事者間に争いがない。

(二)  《証拠省略》を合せ考えれば、原告藤村は、昭和一八年頃、当時の藤村建物の所有者から同建物を賃借してそこに居住を始めたこと、昭和二六年頃同建物がその所有者から税金の支払のため国に物納されたこと、原告藤村は、同年四月一四日同建物を払下げにより取得し、以後同建物の敷地につきその所有者である岩田孝一に借地料を支払ってきたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(三)  右(一)、(二)の事実によれば、原告藤村は、昭和一八年頃から昭和二六年四月一三日までは藤村建物の借家人として、同月一四日から昭和五九年三、四月頃までは同建物の所有を目的とするその敷地の借地人として、同建物に居住していたものということができる。

2  原告山口

(一)  請求原因1の(二)の事実は、原告山口が山口建物を所有してそこに居住した始期の点を除き、当事者間に争いがない。

(二)  弁論の全趣旨によれば、原告山口は昭和二二年頃岩田孝一から山口建物の敷地を賃借し、山口建物を所有してそこに居住を始めたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(三)  右(一)、(二)の事実によれば、原告山口は昭和二二年頃から昭和五九年三、四月頃まで山口建物の所有を目的とするその敷地の借地人として同建物に居住していたものということができる。

3  原告倉澤

(一)  請求原因1の(三)の(1)の事実及び(2)のうち、原告倉澤が昭和五九年三月末ないし四月始め頃まで伊藤建物に居住していたことは、当事者間に争いがない。

(二)  《証拠省略》を合せ考えれば、伊藤建物はもともと伊藤カツヨの夫である伊藤虎雄が岩田孝一から賃借した敷地上に建築して所有していたものであったが、伊藤虎雄は昭和三四年三月二六日死亡し、伊藤カツヨが同建物の所有権及びその敷地の賃借権を相続により取得したこと、原告倉澤は伊藤カツヨの娘婿であるが、昭和三七年六月伊藤カツヨから同建物の贈与を受け、それ以後同建物で伊藤カツヨとともに居住していたこと、原告倉澤は同建物の贈与を受けてから後は、同建物敷地の賃料を現実に出捐してきたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  右(一)、(二)の事実によれば、原告倉澤は、昭和三七年六月伊藤建物の贈与を受けてから昭和五九年三、四月頃までの間同建物に居住していたものということができる。

しかしながら、原告倉澤が伊藤建物の敷地につき借地権を有していたことを認めることはできない。すなわち、一般に借地上の建物が譲渡された場合には、その敷地の借地権もそれに伴って譲渡されたものと解されるが、《証拠省略》によれば、伊藤建物の敷地に関する土地賃貸借契約の更新及び被告との間の借地権消滅補償契約の際における契約書面上はいずれも伊藤カツヨが借地人として表示され、原告倉澤は右土地賃貸借契約の更新における契約書面上に賃借人の連帯保証人と表示されているに過ぎないことが認められ、右事実に右(二)で認定の原告倉澤が伊藤カツヨの娘婿に当たる身分関係を有し、伊藤建物に居住していた間終始伊藤カツヨと同居している事実を合せ考えると、原告倉澤は、伊藤建物の敷地につき、同建物の贈与に伴い伊藤カツヨから何らかの利用権限(使用借権等)を与えられていたものとは推認し得るが、右敷地の借地権そのものを譲り受けてはいなかったものと解される。

そうすると、原告倉澤は、伊藤建物に居住していた間、同建物の敷地につき、その所有者岩田孝一に対する借地権を有していなかったものであり、右借地権は伊藤カツヨがこれを有していたものということができる。

二  都市計画事業の経緯について

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

三  建築基準法による道路指定について

請求原因3の事実は、当事者間に争いがない。

四  知事の違法行為(主位的請求)について

1  建築基準法四二条一項四号は、幅員四メートル以上のものであって、都市計画法等(同法の当初規定では、道路法又は都市計画法であったが、昭和三四年法律第一五六号、昭和四四年法律第三八号、昭和四七年法律第八六号及び昭和五〇年法律第六七号により、順次、土地区画整理法、都市再開発法、新都市基盤整備法及び大都市地域における住宅地等の供給の促進に関する特別措置法が追加され、建築基準法の現行規定となった。)により新設又は変更の事業計画のある道路で、二年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したものを建築基準法第三章の規定において道路とする棟規定している。この規定によれば、四号道路指定を受けた土地については、道路としての構造形態を備えていないにもかかわらず(ちなみに、それが、道路の構造形態を備えるに至れば、同法四二条一項一号又は二号の道路となる。)、同法上の道路として、同法四三条の接道義務、同法四四条一項の建築制限、同法五二条の容積率算定、同法五六条の斜線制限等の規定の適用を受けることになる。

右のような四号道路指定が規定された趣旨は、都市計画法等に基づき道路が新設され又は変更される場合、事業計画により道路の予定位置が決定されてから、築造工事を経てその構造形態を備えるに至るまでには、ある程度の期間を要するのであるが、その間、右の予定位置について道路築造の目的に反する建築物の建築等を禁止するとともに、右の予定位置が前面道路であることを前提として建築物を逐次建築することを認めることにより、事業の円滑な施行を図ろうとするものであると解される。そうすると、四号道路指定要件のうち、都市計画法等による新設又は変更の事業計画のあるとの要件(四号道路指定要件(ア))については、右の事業計画が存在し、かつ、そこで予定道路の位置及び形状が明確に定められていることを要するものと解すべきであり、また、二年以内にその事業が執行される予定であるとの要件(同要件(イ))については、二年以内に道路の予定位置についての事業が執行されて道路が実際に築造されることが予定されていることを要するものと解すべきである。しかしながら、同要件(イ)については、予定という将来の予測に関わる概念が用いられていることからすると、ある程度の確実性は必要であるとしても、結果として、二年を経過した後になって、なお現実には道路が築造されていなかったとしても、それによって右要件が充足していなかったことにならないのは当然であり、また、都市計画等の事業施行者とは別の特定行政庁が指定権者とされていることからすると、事業計画のうえにおいて、二年以内に道路の予定位置についての事業を執行することが予定されているといい得る場合には、それだけで、右要件が充足されるものと解して差し支えないのであって、ただ、右のような場合であっても、事業施行者において、事業を執行する意思を確定的に放棄するなど、二年以内に事業が執行されることはあり得ないものと認むべき特段の事情があり、かつ、その事情につき特定行政庁が知り又は知り得べかりしときには、例外的に右要件が充足されないものと解するのが相当である(もっとも、事業施行者ないしその代表者と特定行政庁とが同一である場合には、右の特段の事情を知り又は知り得べかりしときとの要件は必ずしもこれを必要としないものと考えられる。そして、本件は、まさにこの場合である。)。

2  ところで、原告らは、①まず、昭和三五年九月一六日の時点において、四号道路指定要件(イ)を欠缺するに至った、②次に、仮に右が認められないとしても、昭和四七年三月三一日を経過する時点において同要件(ア)、(イ)を欠缺するに至ったことを、それぞれその前提として、本件指定は失効し、又は、これを取消し、若しくは、変更すべきものとなったとし、本件指定をそのまま有効として維持した知事の不作為は違法である旨主張しているので(請求原因4の(二)、(三))、以下順次検討する。

(一)  右①の主張について

本件指定が昭和三三年九月一六日にされたものであることは、前記三に述べたとおりであり、本件指定に係る道路がその二年後の昭和三五年九月一六日の時点においてもなお築造されていなかったものであることは、当事者間に争いがないところと認められるが、本件指定がされてから二年を経た後に本件指定に係る道路が現実に築造されていなかったとしても、そのことだけで本件指定が四号道路指定要件(イ)を欠缺することになるものでないことは、右1に述べたところから明らかである。また、本件指定に係る道路について、事業計画のうえにおける予定という観点からみれば、道路予定位置部分の本件事業が二年以内に執行されるものとして定められていたものと判断し得ないわけでないことは、弁論の全趣旨に徴しこれを認め得るところ、昭和三五年九月一六日の時点で、この事業の執行が二年以内にあり得ないと認むべき特段の事情についてはこれを認定するに足りる証拠はないから、右の時点で、同要件(イ)が欠けていたものということもできない。

そうすると、原告らの右①の主張は、前提を欠くものとして採用できない。

(二)  右②の主張について

(1) まず、四号道路指定要件(ア)について検討する。

前記二の事実によれば、本件事業は、第一一五七号告示に係る事業の執行年度割の変更において最終執行年度が昭和四六年度とされ、その後執行年度割の変更がされず、昭和四七年三月三一日の経過をもってその執行年度が終了し、引き続いて、同年四月一日事業施行期間を同日から三年間とする本件新事業を新たに許可する旨の告示がされている。

ところで、本件事業は旧都市計画法に準拠するものであるが、本件新事業の認可前である昭和四三年六月一五日、現行の都市計画法が制定されて昭和四四年六月一四日に施行され、同日旧都市計画法が廃止されている。現行の都市計画法は、旧都市計画法を引き継いだ法律であって、旧都市計画法によって決定されている都市計画はそのまま現行の都市計画法による都市計画とみなされ(都市計画法施行法二条)、また、執行中の旧都市計画法による都市計画事業はそのまま現行の都市計画法による事業とみなされている(都市計画法施行法三条一項)。旧都市計画法の下では、都市計画事業の施行者は同法五条一項において政令に定める行政庁とされていて、本件事業の施行者は知事であったが、現行の都市計画法では、事業施行者は原則として国の機関、都道府県又は市町村とされ(同法五九条一項ないし三項)、同法施行の際現に執行中の都市計画事業のうち都道府県知事が施行しているものは都道府県が施行しているものとされたのである(同法施行令附則七条一項)。

そして、《証拠省略》によれば、本件新事業の認可申請は、本件事業が旧都市計画法に基づく都市計画事業であったことから、これを現行の都市計画法の施行に伴い、同法に準拠する都市計画事業として認可を取り直すのが相当としてされたものであること、本件事業と本件新事業とは時間的にも連続し、そこに時間的間隔がないこと、本件事業及び本件新事業の内容は、いずれも大井町駅東側駅前の整備を目的とし、同一の事業地域において駅前広場とそれにつながる二本の街路を設置するという同一内容のものであること、本件事業に関して行われた用地買収、駅前広場の造成、舗装工事等の成果は全てそのまま本件新事業に引き継がれていること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上に述べたところに基づき本件事業と本件新事業との関係について考えるに、形式的にみれば、本件事業と本件新事業とは根拠法律を異にし、しかも一旦本件事業を終了させ、新たに本件新事業の認可手続を経ていることからすると別個の事業ということができる。しかしながら、現行の都市計画法は旧都市計画法を引き継いだ法律であり、本件の都市計画はそのまま現行の都市計画法による都市計画とみなされるとともに、本件事業はそのまま現行の都市計画法による事業とみなされるから、本件事業を終了させないで、事業計画を変更する方法により対処することも可能であったが、施行者である被告において、現行の都市計画法により新たに事業の認可を得るのを相当として、本件事業と内容的には全く同一の本件新事業の認可申請を行ったのであって、右申請は、本件事業をそのまま継続することを目的として行われたものであり、本件事業と本件新事業とは、その施行期間も連続しているのである。そうすると、本件新事業は、本件事業と実質的には同一の都市計画事業であって、本件指定の前提となる事業とみて差し支えなく、したがって、昭和四七年三月三一日を経過した時点において、本件指定につき、その事業計画が存在しなくなったことを理由に四号道路指定要件(ア)が欠缺するということはできない(なお、当然のことながら、右を理由に同要件(イ)を充足し得なくなったということもできない。)。

(2) 次に、四号道路指定要件(イ)について検討する。

前記二の事実に、《証拠省略》を合せ考えれば、本件事業及び本件新事業の進捗状況は次の(ア)ないし(サ)のとおりであることが認められる。

(ア) 本件事業の執行年度割は、当初昭和三三年度から昭和三五年度と決定されたが、その後用地買収の進捗状況の関係から既定年度内に執行が完了できないことを理由に、第八二五号告示により昭和三八年度まで、第一〇七七号告示により昭和四三年度まで、第一一五七号告示により昭和四六年度までと順次変更(延長)され、次いで本件新事業に引き継がれた後も請求の原因2(六)記載のとおり事業の施行期間が順次変更(延長)されている。

(イ) 本件事業及び本件新事業の内容は、広さ三〇六〇平方メートルの広場(広場二号)、幅員一五メートル延長五一メートルの街路(街路三号)及び幅員一五メートル延長九七メートルの街路(街路四号)の設置であり、これは第一七八三号告示による都市計画の変更、追加決定段階でその位置、形状とも確定しており、右の内容は以後変更されていない。

(ウ) 本件事業及び本件新事業の用地(以下「本件事業用地」という。)の面積は、現に道路であった部分を除いて、広場二号については約二四二一平方メートル、街路三号については約七二五平方メートル、街路四号については約一四〇〇平方メートル、合計約四五四六平方メートルである。

(エ) 被告は、昭和三二年までに、本件事業用地のうち、東京都品川区東大井五丁目五六五番二(所在地の表示は当時のものである。以下同じ。なお以下同所所在の土地を表示するときは地番のみを記する。)、五六五番五七、五六五番三五の土地三筆合計二八六七・一七平方メートル(本件事業用地内に含まれる部分は約二四五〇平方メートル)の所有権を取得していた。ところが、昭和三四年頃、本件事業用地内の住民から街路三号の位置の変更を求める請願が出されるなど一部住民に本件事業に反対する動きが起こり、以後本件事業用地のうちの民有未取得地の買収が停滞することになった。

(オ) そこで、知事は、とりあえず、公共用地を中心に本件事業を進めていくことを決め、昭和三四年三月一四日から広場二号の造成工事を行い、同工事は同月三一日竣功した。また昭和三五年二月一〇日から広場二号の舗装工事を行い、同工事は同年三月三一日竣功した。本件事業用地の取得については、昭和三七年一二月三日、五六五番五五の土地四五九・五平方メートルを品川区から買収し、昭和三九年八月一日、同土地と既取得地の五六五番三五の土地を南部区画整理事務所から本件事業を所管する江東再開発事務所へ所属換えを行い、また、昭和四三年五月三一日いずれも既取得を五六五番二及び五六五番五七の土地を財務局管財部管財第三課から江東再開発事務所へ所管換えを行い、内部的にも右各土地を本件事業用地として扱う手続を了した。しかし、その他の本件事業用地の取得は全く進捗をみない状態であった。

(カ) 被告は、昭和四七年に入り本件事業の継続の是非について検討を行い、これまでの本件事業の進行程度、当時大井埠頭埋立地等の開発計画があり、これに伴う大井町駅東側駅前の整備の必要性、都市の発展に伴う道路整備の必要性等が検討考慮され、結局本件事業を継続することに決定した。しかし、その頃既に現行の都市計画法が施行されていたので、被告は、本件事業の執行年度割の変更に代えて、本件新事業の認可を受けた。

(キ) ところが、昭和四八年のいわゆるオイルショックの発生それに伴う急激な物価騰貴等により、被告の財政事情が極度に逼迫し、土木事業費が大きく抑制されることになった。このような土木事業費の抑制は景気が好転してきた昭和五三年以降も主要優先的事業である大幹線道路の建設事業等を除き大きな変化はなく、本件新事業も昭和五六年頃まで全く進捗しなかった。

(ク) また、本件事業については、昭和二一年七月一三日の内務省、戦災復興院、運輸省の三者間でされた都市計画における駅前広場の整備に関し、国鉄が費用の一部を負担する旨の申合せに基づき、国鉄が本件事業の経費のうち一三八〇万九〇〇〇円を分担するなどの負担を負うこととされていたが、昭和五六年までの間国鉄からは右分担金等の履行がされなかった。そこで、被告は、昭和五六年一二月一四日、国鉄に対し昭和四七年七月一五日の都市計画における駅前広場の造成についての建設省、国鉄間の申合せに基づく費用負担を求めたが、国鉄からは費用負担には応じられない旨の回答があり、以後被告は、国鉄からの負担を考慮せずに事業を施行した。

(ケ) 一方、昭和五二年八月一〇日には、品川区長から知事に対し本件新事業の促進方について書面による要請があったり、昭和五三年六月二四日には大井町駅前広場(広場二号)が大井埠頭埋立地への路線バスの発着所として使用が開始され、更に昭和五六年には品川区八潮地区で大規模な住宅地の開発整備が進み、大井町駅前広場及び街路の設置、整備の必要が一層増大した。

(コ) 被告は、昭和五六年頃から財政事情が好転してきたことや右(ケ)の事情等に鑑み、早期に本件新事業を執行すべく、同年一二月一四日事業用地内に住む住民を対象に事業用地の測量及び事業予定等について説明会を開催し、昭和五七年三月測量作業を終了し、同年六月二八日事業用地の買収等について説明会を開催し、事業用地の買収を進めた。被告は、昭和五八年二月八日から同年三月一六日の間に五六五番地六七、五六五番地六八、五六五番地六九、五六五番地七〇の土地合計一一一・九七平方メートルを買収取得し、昭和五八年度中に約一八一平方メートル、昭和五九年度中に約三四六平方メートル、昭和六〇年度中に約二七二平方メートルの事業用地の買収が行われ、広場二号及び街路四号に係る用地については買収が完了している。

(サ) なお、これまでの本件事業等における事業用地の取得状況は別表のとおりである。

以上の(ア)ないし(サ)の認定事実に反する証拠はない。

右認定事実によれば、昭和四七年三月三一日を経過した時点において、本件事業が昭和三三年に事業決定されて以来約一四年間を経過しており、右の時点以後本件新事業となってからも、事業年度が順次変更されて現在に至っているものであるが、その事業の内容は終始同一であり、事業の施行は、途中に若干の停滞はあるものの、全体として見れば、継続してその完成に向けて進んでいるものということができる。

ところで、昭和四七年三月三一日を経過した時点で、本件指定に係る道路に関し、本件新事業の事業計画のうえにおける予定という観点からみるとき、事業が二年以内に執行されるものとして定められていたものと判断し得ないわけでないことは、前示の認定事実及び弁論の全趣旨に徴しこれを認め得るところであり、また、前示の認定事実によると、右の時点の頃、事業施行者である被告において事業執行の意思を放棄したといった事情は到底見い出し難いところであるし、他に二年以内に事業が執行されることはあり得ないものと認むべき特段の事情を認定するに足りる証拠はないから、右の時点において、四号道路指定要件(イ)が欠缺していたものともいえない。

(3) そうすると、右②の主張もまた、その前提を欠くものとして採用できない。

五  知事の違法行為(予備的主張)について

1  原告らは、まず、本件指定がされた以上、事業施行者としては二年以内に事業を施行しなければならない義務を負うとし、これを前提に、知事はこの義務を懈怠した旨主張する(請求原因5の(一))。

しかし、四号道路指定につき、四号道路指定要件(イ)が規定されているからといって、この規定から、直ちに、都市計画法等による事業施行者に対し、二年以内に右指定に係る道路を築造しなければならない義務を負わせているものと解することはできない。このことは、右義務を定めた法令上の根拠規定がないことからいっても、また、旧都市計画法及び現行の都市計画法において、事業の執行年度割又は施行期間の変更を含む事業計画の変更が認められていることからいっても、明らかというべきである。

そうすると、原告らの右主張は、前提を欠くものとし採用することができない。

2  原告らは、更に、昭和四七年三月三一日を経過した時点及び昭和四九年四月一日の時点をとらえて、知事は、本件事業及び本件新事業の施行者である被告の代表者として、右の時点までに、その事業の執行をすべき義務があるのにこれを懈怠した旨主張する(請求原因5の(二))。

ところで、前記四の2の(二)の(2)で述べた本件事業及び本件新事業の進捗状況によれば、本件事業及び本件新事業は、その当初の事業決定から現在まで約二九年間を経過するも、なお未だ完成をしていないのであるが、その原因は、昭和三四年頃から始まった一部住民の反対による用地買収の困難化、本件事業の事業決定当初から分担金等の負担を約束していた国鉄の不協力、昭和四八年以降のオイルショックによる物価騰貴とそれに伴う被告の財政事情の悪化等にあり、その事態の性質に鑑みると、それらは、いずれも事業施行者又はその代表者である知事の責に帰し得ないやむを得ない事情によるものと推認されるところ、この推認を覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、原告らの右主張もまた採用できない。

六  結論

以上によれば、知事が違法行為をしたものとはいえないから、知事の違法行為を前提とする原告らの請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

よって、原告らの請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 加藤就一 青野洋士)

〈以下省略〉

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